学のない僕が本を読んだ

いろんな本の感想を綴っています。参考にならないものがあるのも悪しからず。

【感想】切り裂きジャックの告白(中山七里)ネタバレなし

 中山七里さんの「切り裂きジャックの告白」を読みました。

切り裂きジャックの告白 刑事犬養隼人 (角川文庫)

切り裂きジャックの告白 刑事犬養隼人 (角川文庫)

 

 

内容(「BOOK」データベースより)
東京都内の公園で臓器をすべてくり抜かれた若い女性の死体が発見された。やがてテレビ局に“ジャック”と名乗る犯人から声明文が送りつけられる。その直後、今度は川越で会社帰りのOLが同じ手口で殺害された。被害者2人に接点は見当たらない。怨恨か、無差別殺人か。捜査一課のエース犬養刑事が捜査を進めると、被害者の共通点としてある人物の名前が浮上した―。ジャックと警察の息もつかせぬ熾烈な攻防がはじまる!

 「脳死判定」、「臓器移植」というのが一つのテーマとなっている作品です。
 脳死っていう考え方が日本に導入されてどれぐらい経ったでしょうか。確か、法整備する際にはかなり議論になった覚えがありますが、今はあんまり見かけないですね。
 まさに身内が脳死判定を受けた方の中ではものすごい大きなことなんでしょうが、社会一般の関心は薄れているように思えます。

 

 本作品の中では、医者の中での臓器移植推進派と反対派、及び反対派のお坊さんが激論を交わす場面が出てきます。お坊さんのほうは「脳死が人の死であるという概念が日本にはない」と主張しており、推進派の医者は「健康な臓器があり、さらに他者に提供する意思(ドナーカード)がある。また、その臓器を必要としている患者がいるのに、どうしてそれが許されないのだ」と反論していました。
 臓器移植だけに焦点を当てると、僕個人としては倫理的な問題はさほど大きくないと考えています。実際、無理やり臓器を摘出するわけではなく、ドナーカードという意思表示が必要ですし、もう死んでしまった人の(脳死の議論は横に置いています。脳死が人の死かどうかについては議論の余地があるでしょう)、必要のない臓器がそこにあるのなら、誰かのために使うことが本人のためにもなるのかなと。

 ただ、クローン技術とか、着床前診断による受精卵の選別などを考えると、なかなか判断がつきません。技術的に可能になった状況において、それらは禁止されるべきでしょうか。クローン技術というと国民の抵抗感も大きい気もしますが、受精卵の選別というのは一定程度は認められるべきです。例えば、流産をしやすい遺伝子を持っている受精卵を着床させたとしても、流産を繰り返すだけであり、不妊治療を続けている母体の負担が増えるだけです。なので、そういう場合は認められるべき、と言えると思うんですが、どこでその線引きを引くのかなっていうのが分かりません。

 たいへん重い病気にかかることが分っていながら選別を行わないことが生命倫理上適切なのか。もしくは選別を行うことが不適切なのか。
 いつかはこういう問題にも立ち向かっていかなければいけないんですね。

 

 ちょっと生命倫理の話が長くなってしまいましたが、どんでん返しに定評がある中山七里さんらしい、安定したミステリーでした
 何作品も読んでいると安心感が出てきますね。
 本当に外れがない作家さんです。

 

その他の中山七里さんの作品感想はこちら↓

 

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【感想】ナミヤ雑貨店の奇蹟(東野圭吾)ネタバレなし

 東野圭吾さんの「ナミヤ雑貨店の奇蹟」を読みました。ほっこりする小説ですし、先が気になる展開、読み進めるうちに点と点が結ばれていくところは見事でした。

ナミヤ雑貨店の奇蹟 (角川文庫)

ナミヤ雑貨店の奇蹟 (角川文庫)

 

内容(「BOOK」データベースより)
悪事を働いた3人が逃げ込んだ古い家。そこはかつて悩み相談を請け負っていた雑貨店だった。廃業しているはずの店内に、突然シャッターの郵便口から悩み相談の手紙が落ちてきた。時空を超えて過去から投函されたのか?3人は戸惑いながらも当時の店主・浪矢雄治に代わって返事を書くが…。次第に明らかになる雑貨店の秘密と、ある児童養護施設との関係。悩める人々を救ってきた雑貨店は、最後に再び奇蹟を起こせるか!? 

 読んでいる途中で思い出したんですが、物語の進み方はプレステやセガサターンで発売された「街」に似ていますね。

 10代の人たちは「街」がどんなゲームか分からないかもしれませんが、知る人ぞ知る名作なんです。「街」を知っている方は、この小説を読むとちょっと思い出すかもしれません。

 

 「ナミヤ雑貨店」というお店が始めた悩み相談。その悩み相談を通して物語は動いていきます。

 本作品の中では悩み相談というのは手紙のやりとりによって行われます。ですので、悩みに回答する側のナミヤ雑貨店は文字の情報のみで、相手の悩みに対峙することになります。

 悩み相談ってすごく高いコミュニケーション能力が要求され、相手が言っていることが、そのまま相手の思っていることとイコールではないんですよね。「AかBか迷っているんです」と相談があったとしても、もしかしたら本人の中では「Aを選ぶって決まっているけど、一歩踏み出せない」っていうこともあるし、「実はCっていう選択肢もあるんですが、それは書かないでおこうかな」とか「Dっていう背景を隠したまま相談しよう」とかもあるでしょう。悩み相談に答える側っていうのはそういう裏事情なり、心理なりを読み解かないとなかなか的確な回答ができません。

 ただ、的確な回答ができないからダメかというと、そうでもないと思うんです。悩み相談の一番の利点っていうのは、誰かに話すことによって自分の思考・状況を整理できること、です。答えが出せなくても悩みを聞くことに意味はあるし、答えを出すよりはむしろ話を聞き出す能力のほうが大事なのかな、もしかしたら。

 ナミヤ雑貨店の悩み相談という親父ギャグのような話ですが、心が暖かくなる小説です。ぜひぜひ読んでみてください。

【感想】テミスの剣(中山七里)ネタバレなし

 中山七里さんの比較的新しい作品である「テミスの剣」を読みました。複数の事件や思惑などが複雑に絡み合って、非常に読み応えのある作品でした。 

テミスの剣

テミスの剣

 

内容(「BOOK」データベースより)
昭和五十九年、台風の夜。埼玉県浦和市で不動産会社経営の夫婦が殺された。浦和署の若手刑事・渡瀬は、ベテラン刑事の鳴海とコンビを組み、楠木青年への苛烈な聴取の結果、犯行の自白を得るが、楠木は、裁判で供述を一転。しかし、死刑が確定し、楠木は獄中で自殺してしまう。事件から五年後の平成元年の冬。管内で発生した窃盗事件をきっかけに、渡瀬は、昭和五十九年の強盗殺人の真犯人が他にいる可能性に気づく。渡瀬は、警察内部の激しい妨害と戦いながら、過去の事件を洗い直していくが…。中山ファンにはおなじみの渡瀬警部が「刑事の鬼」になるまでの前日譚。『どんでん返しの帝王』の異名をとる中山七里が、満を持して「司法制度」と「冤罪」という、大きなテーマに挑む。

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