【感想】13階段(高野和明)ネタバレなし
【「罪を償う」とはどういうことなのかを考えさせられる作品】
最近話題の「ジェノサイド」を書いた高野和明さんのデビュー作、「13階段」の感想を書いていきます。
内容(「BOOK」データベースより)
無実の死刑因を救い出せ。期限は3ヵ月、報酬は1000万円。喧嘩で人を殺し仮釈放中の青年と、犯罪者の矯正に絶望した刑務官。彼らに持ちかけられた仕事は、記憶を失った死刑囚の冤罪を晴らすことだった。最大級の衝撃を放つデッド・リミット型サスペンス!第47回江戸川乱歩賞受賞作。
高野和明さんの文章は読者を引き込むのが非常に上手で、この作品も、上下巻となっている「ジェノサイド」もどちらも長編にも関わらず、一気に読み切ってしまいました。
これがデビュー作ということですが、後書きにもあるように、満場一致で江戸川乱歩賞に決まったのが納得の作品です。こんな新人がいるなんて、信じられないぐらいです。
「罪を償う」とはどういうことか?
さて、「13階段」というのは死刑台に上るための階段の段数を示しているようです。*1「死刑」というのを物語の中心に据えつつ、「喧嘩で人を殺し仮釈放中の青年」と「犯罪者の矯正に絶望した刑務官」がそれぞれの事情を抱えながら、死刑囚の冤罪を晴らすために協力していきます。
「喧嘩で人を殺し仮釈放中の青年」が主人公の一人ですが、みなさんはこの青年にどういう印象を持つでしょうか。もしくは、自分の職場にこのような人物が入ってきたとき、どう接しますか?。
僕たちの社会においては、人を一人殺してしまっても基本的には死刑とはならず、情状酌量が考慮されると比較的短い刑期で出所できるようです。刑法が何のためにあるのか、ということについては様々な意見がありますが、その1つには「人は過ちを犯すこともあるが、更生することもまた可能である」という信念のもと、刑務所で過ごすことで更生させる、という目的もあります。
僕たちの社会においては、そうすることで法的には「罪を償った」とされます。
しかし、そうやってドライに考えられる人は比較的少数派ではないでしょうか。逆に、裁判では情状酌量の余地など、加害者の言い分も十分聞いてもらえる制度となっていますが、一般の方はどう考えるでしょうか。上にも書いたように、「喧嘩で人を殺し仮釈放中の青年」について、どう接するのかという問題が出てきます。
殺意を持って殺したかもしれません。
「喧嘩」とはいうものの、一方的に闇討ちしたかもしれません。
闇討ちされそうになったが、抵抗している最中に打ちどころが悪くて、殺意はなかったのに殺してしまったかもしれません。
彼女とデートをしている最中に酔っぱらいが絡んできて、これまた少し振り払っただけで転んで死んでしまったかもしれません。
しかし、一般の方々はそんな細かいところまでは見ず、「あの子、人を殺して刑務所入ってたらしいわよ」というレベルで噂が拡散していきます。そうすると、彼は法的には罪を償ったにも関わらず、日本社会で生きていけなくなるかもしれません。
一方、青年は青年で、これからどう生きていくべきでしょうか。法的に「罪を償った」という事実にあぐらをかいていていいのでしょうか。
彼には、幸せになる権利はあるのでしょうか。
また、「人の更生」というのは可能なのでしょうか。
ちょっとまとまらない感想になりましたが、こういうことを深く考えさせられる作品となっています。
当然、ミステリーとしても先が気になる展開で、おもしろかったです。ぜひ、読んでみてください。
*1:実際に現在の日本において13段となっているかは不明のようです